大判例

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名古屋高等裁判所 昭和27年(う)364号 判決

原審証人服部鐐一の供述によれば、同人は中日繊維工業株式会社(以下単に会社と称す)の取締役社長であるところ昭和二十六年八月頃その営業資金に窮した(銀行その他から如何なる金融をも受け得ない状態)結果、被告人に対し、被告人宛の会社振出の本件約束手形二通を交付し被告人の信用によつてその取引銀行から割引金融を受けて貰うよう依頼したものであることが窺われる。而して原審証人堀川喜久夫(北陸銀行名古屋支店行員)同堀江好一(当時百五銀行上前津支店長代理)並に当審証人藤森一郎(百五銀行上前津支店長代理)の各供述の結果を綜合すれば、被告人は当時百五銀行上前津支店並に北陸銀行名古屋支店と何れも取引があり本件手形金額程度の金員は融通を受け得る信用を有していたものであることが肯かれ、さればこそ被告人は本件手形を夫々右両銀行に裏書譲渡することによつて合計五十九万四百七十一円八十四銭の割引を受け得た事情にあることが推認される(右両銀行が取引関係のない会社を信用して同会社に割引したものでないことは容易に看取し得るところである)。よつてみれば、服部鐐一が会社振出の本件約束手形二通を被告人に交付したのは、被告人に対し手形による割引金融を依頼したことに他ならないのであるから帰するところ被告人に対し金員の貸与を申込んだ場合と実質において選ぶところはないと解される、されば被告人が右手形を前記両取引銀行に夫々裏書譲渡することによつて割引を受けた金員は手形振出人である会社に交付融通される筋合の金員ではあるが、割引を受けたのは被告人でありこれによつて夫々銀行の被告人当座に振込まれ預金化した本件の金員は兎に角被告人に帰属したものと解すべきであつて、割引と同時に直に会社の所有に帰するものと解することはできない。尤も会社は本件手形二通を被告人に振出交付することによつて手形債務を負担したのであるから、手形の返還を受けない限り被告人に対し手形割引に相当する金員の交付を求める権利(金融を請求する権利)を有することは首肯される。しかしながら手形の割引を受けたのは被告人であつて会社ではなく、また被告人が会社の代理人として若くは会社のためにすることを銀行に示して割引を受けたものでないのであるから本件金員が直ちに会社に帰属するものとすることはできない。されば被告人が自己の預金となつた本件金員を着服するという関係はあり得ないものというべく所詮本件被告人の所為は横領罪を構成するものではない。従つて被告人の所為を横領と認定した原判決は事実を誤認したものというべく破棄を免れない。

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